#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

Netflix「GIRI/HAJI」と父親の不在

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いやあ良いドラマでしたね。「GIRI/HAJI」わたしはこのドラマをみるまで、わたしが苦手なのは日本の俳優の演技なのだと思い込んでいたのだけど、日本語英語のスイッチングなどによって多少の違和感はあるにせよ「GIRI/HAJI」において日本人俳優たちの魅力的なこと!わたしが苦手だったのは日本の製作者の作る物語とそこに至る過程で俳優に求められる演技なのであって、演技そのものや俳優そのものではないのだなあと思ったのでした。(「GIRI/HAJI」はBBC製作です)

このノワールドラマにおいて、描かれているのは「家父長主義原理国家である日本における父親の不在」だと思う。

冒頭から森家においては父親が不在であることが繰り返し描かれ、そのことによって家庭が機能不全に陥っている様が印象付けられる。これはまあ仕事ばかりで家にいない父親という、一般的に多いと思われる家庭の状態であり、家父長主義国家でありながらも父親は家にはおらず、そこに権力もあまりない。

それではここにおいて圧倒的父性として立ち上がってくるのはなにか。それは遠藤家/福原家を代表するヤクザの「親分」である。彼らは劇中舎弟たちによって「オヤジ」と呼ばれる存在であり、劇中で描かれる日本においては圧倒的な権力を持つ唯一の「存在する」家父長なのである。

 

・森家の場合

森家の父は、イギリスへ弟を探しに行き、その不在の父を探しにきたタキだが(娘は父を追いかけてきたのではなく、父を探しにきたというのが劇中タキのセリフに明確に示されている)タキは結局父親はいなかった、だから気持ちがおかしいのだとしてロンドンでビルから飛び降りようとする。(ここから始まるダンス、わたしこういうのすごい苦手なのになぜかいたく感動した)

劇中唯一登場する普通の家庭の代表である森家において、もはや父親はいないのだ。ロンドンまで探しにきても、「父親」はいないのだ。彼女の人生、そして森家には永遠に欠落した存在が父親なのである。

そして健三がロンドンへ行き(父が不在)、祖父(穂高)が亡くなった(また父が不在)、森家から父親がいなくなったとき、祖母、嫁はついに外に出るのである。父親たちが不在となり、外に出て自分で何かを成し遂げた(のかな?)とき、初めて嫁は笑顔を見せるのである。(まあチーム女子の活躍はややもすれば少し物足りない感もあるけど)

 

・遠藤家/福原家の場合

「オヤジ」と呼ばれて二大ヤクザを仕切る親分2名が「悪しき父親」、旧世代から続く悪しき家父長制は、ゆうとが仕掛けた抗争により結果的に殺される(父の不在)となるわけだけれども、そういう意味であの親分会議の場で「女子」プロレスラーである長与千種が圧倒的父性に退場を宣告するのはとても意味のあるキャスティングだったと思う。ここにおいても、(ヤクザという組織自体は解体されはしなかったけれども)象徴的父性が不在となる幕引きである。

 

・ゆうとの場合

窪塚洋介演じるゆうとは唯一、「不在」が「存在」となるキャラクターである。彼があらゆる父性を(直接的/間接的に)解体していき、いちばん若い父親であるゆうとが父親となる。しかし彼が父親になるのは父親が不在である日本ではなく、フランスにおいてである。

つまり「家父長制原理主義国家」である日本では父親は永久に不在のままであり、父親になることはできず、日本を出ることによって父親になれるのはこれも意味ありげであって、けれどもなんか日本はやっぱあかんのかなあ...まあわかるなあ...みたいな気持ちになったりしたのであった。

 

あとGIRI/HAJIはわたしは英語/日本語がパシパシと切り替えてFrequentに使われる様子がとても小気味好く好きだった。なんというか作品中に複数の言語が登場し、登場人物がそれを使い分けるみたいなのもっとあってもいいと思うんだよね。単一言語だけなんて古いでしょ、という気持ちになった。日本語を解さない者がいる席では日本人の家族同士でも英語で話し、聞かれたくないとこは日本語使う、みたいなそういう切り替えもすごく上手だったよね〜

 

ヤクザノワールとして始まったと思いきや、製作陣がE5あたりから”Bad Intension”の話を持ち出してきて、そこらへんから人間がどのような悪意をもって行動を起こしてしまったにせよ、人間の存在の根底にある善を信じようとするような眼差しや、異なった価値観を持つ者たちが一緒に行動するようになるにつれて連帯していく様子など、あぁ人間ドラマを描きたかったのだなあとすごく感動してしまったんだよね。なので終盤のあのダンスもありです!テーマをよく示してた!