#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

故郷を切望する物語としての「ブラックパンサー」

f:id:watashidake:20180320202823j:imagef:id:watashidake:20180320202826j:image

ブラックパンサー」を見たその足で、書店に寄ってヤア・ジャシの「奇跡の大地」を買って読んだのだけど、まったく関係のなさそうなこの2つの物語がわたしの中でものすごく結びつきあったような気がしたのでその話を書きたいと思う。あとその話書いてたらブックリストができたので「ブラックパンサー」を見たあと読むべき4冊のブックリストを記事のおしりにつけました。わたしのブログは読まんでいいから本を読んでくれ。(本のネタバレはしてないけど、ブラックパンサーのネタバレしてます)

 「奇跡の大地」の作者ヤア・ジャシは1989年生まれのケニア系アメリカ人で、「奇跡の大地」がデビュー作である。それで、この「奇跡の大地」っていうのはアフリカで生まれた異父姉妹からずっと家系図が追いかけられて、かたやアフリカに残った家系と、かたや奴隷としてアメリカに連れてこられた家系の、その子孫たちの物語が語られるんですね。ものすごいと思うのは、それぞれの子孫たちの話は数ページしか語られないし、彼らの人生のすべてが語られるわけではないのに、その語り口や語られることによって、アフリカからアメリカまで、そして奴隷制のはじまりから現代までを圧倒的な物語として立ち上ってくるんですよ。(読んで!!!!!)

「奇跡の大地」の原題は"Homegoing"なんですが、"Homegoing"というのは、アフリカンアメリカンの葬儀の伝統的な儀式で、亡くなった人が天国へ戻ることを祝福するという儀式で、それでこのタイトルは「奴隷たちは亡くなることによって、その魂が故郷アフリカに戻ることができる」という信仰からとられているんだそう。(これ知って「奇跡の大地」読むと最後死ぬほど泣いてしまうんだけど...)

この「アフリカに戻る」という話を聞いてトニ・モリスンの「ソロモンの歌」を思い出したりもして。ここでもアフリカへの回帰について描かれていたんだよね。彼らにとっての故郷は、アフリカであり、故郷への回帰を切望しているということが根底にあると思う。

 で、「ブラックパンサー」なんだけど、わたしあれはアフリカにあるワカンダ国の王子の話ではなくて、アフリカンアメリカンであるエリック・キルモンガーの"Home"(故郷)の話だったと解釈していて。これは、あのオープニングの父親に故郷の話をねだるのはワカンダですくすく育ったティチャラではなく、エリック・キルモンガーだということからも明確に示唆されていると思う。つまりエリックが"Homegoing"する物語であるということ。

だから、ワカンダという国はある種ユートピアのような描かれ方をしていると思っていて。あれは「こうだったらよかった故郷」「わたしたちがいるべきだった故郷の物語」なんですよ。(そう考えたときに、エリック・キルモンガーというキャラクターの掘り下げ方の足りなさとかも感じるけど)

ティチャラの純粋に、ワカンダという恵まれた国で育ってきた屈託のなさと、父親をブラックパンサーに殺された、ルーツをワカンダに持つ、屈託の塊のようなエリック・キルモンガーが対峙したときものすごい切なくなってしまって。(エリックの気持ち考えるととね...いや、ほんとエリック・キルモンガー最高じゃなかったです...?わたし屈託しかない悪役大好きだからほんとエリック大好きなんだけど...)

 ティチャラというキャラクターが「シビルウォー」で登場したときから、このキャラクターを「ただの黒人ヒーローにはしない」「きちんと描こう」という意思を強く感じていて、それは彼の使う英語のアクセントなんだけど、彼の使う英語ってちゃんとアフリカ訛りだったんですよね。それで「教育をきちんと受けた人なのに訛りのある英語なのはおかしい」という意見を当時目にしたりもしたんだけど(根に持ってる)、むしろそれは違うんだよね。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの「アメリカーナ」で、主人公のイフメル(アフリカでも英語を話してた)が、アメリカに渡ってずっと話してきたアフリカ訛りのある英語を「英語じゃない」みたいに言われる場面があって、ナチュラルヘアと同じようにアフリカから来たものは髪の毛も言葉もアメリカ的に矯正させられちゃう。けど、ティチャラはそうじゃなかった。アフリカにある国に王らしく、アフリカの英語を話すキャラクターだった。だからティチャラっていうのはものすごく配慮されて作られていて、その言葉ひとつとってもそこから血肉が通うようになっていると思ったわけです。

そこから今回の「ブラックパンサー」だけど、もちろんティチャラをはじめとして、きちんと「アフリカ英語」が使われているのはもちろんのこと、アフリカンカルチャーを取り入れて良いと思ったのね。もちろんまだ考えるべきこともあるとは思うけど、わたしは文化の盗用やアフリカのステレオタイプというところではあまりひっかからなくて(そういう批判があることも理解した上で、その話も聞きたいと思ってるからみんなブログとか書いてほしい)むしろ、ワカンダをアフリカにあるひとつの国としてみたときに、キルモンガーが王位についてから、ワカンダ国民が2つに分かれてしまって殺しあうわけですよね。アフリカにもそういう歴史はあって(でもそれは西洋諸国のせいだったりもして)そう考えるとCIAのロスの使い方が安易すぎると思うし、だってロスが撃ち墜としてる飛行機、ワカンダ国民がのってたよね?ワカビの部族とティチャラが戦うところだって、死人でてるよね?そう考えると終盤の展開はものすごい安易だし、あそここそ批判されてしかるべきだとわたしは思う。あの映画のアフリカ描写をアフリカ軽視だというなら、あそこの描き方こそがアフリカの歴史を軽視しているんじゃないかと思う。

と思ったのもヤア・ジャシの「奇跡の大地」を読んだからなんだけど、というわけで、ブラックパンサーを見てもっと考えたいみなさま、ぜひ「奇跡の大地」を読んでほしいと思います。

とはいえ「ブラックパンサー」がもの新しい物語だったかというと、わりとアメリカ映画(つかマーベル全部そうじゃない?)では定石の「父と息子の物語」だったし、物語の路線としてはむちゃくちゃ王道だったよね。女性キャラクターが素敵だったのは間違いないけど、やはりあれは男の物語であるとは強く思いました。

 

あと全然関係ないけど、わたしはエリック・キルモンガー死んだと思ってなくて、だってあのシーンだけ引きで取られてて明確に写ってなかったじゃん??だからキルモンガー死んでないと思うの。だからなんなら、エンドロール後のおまけ映像とか、バッキーがうつるまで、キルモンガーが出るんだと思って、死ぬほど泣いてたんだけど、バッキー出てきて涙引っ込んだし、バッキーもわたし大好きなんだけど、「ここばかりはお前じゃねぇよ!!!!!」てなっちゃったんですよね....(インフィニティウォーのトレイラーでキルモンガーを探した女より)

 

ブラックパンサー」のあとに読むべきブックリスト

1. ヤア・ジャシ「奇跡の大地」

2. トニ・モリスン「ソロモンの歌」

3. チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ「アメリカーナ」

4. タナハシ・コーツ「世界と僕の間に」