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#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

申京淑「母をお願い」

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お母さんっていうのは、なんとも不思議な存在だ。わたしにとって母は母しかいなくて、でもひょっとするとわたしは母の、わたしの母であるところしか知らないのかなと思う。

唐突に母が語り出した、母の幼少期の辛い話や、哀しい話を、そんな話聞きたくないと思ってしまったりもする。そんな時のわたしの不機嫌な表情は、母の、わたしの母であることから抜け出してひとりの人間であろうとする部分を、傷つけてしまっているのかもしれない。わたしは傲慢で、気が短くて、不出来な娘だ。わたしは、いつでも、母はそこにいると思ってしまうけれど、そんなことはない。

申京淑の「母をお願い」は、あるとき行方がわからなくなってしまった母を探すある家族の物語である。家族ひとりひとりの独白、そしてある女性の口から語られる「オンマ」の姿は、ひとりの女性であったけれど、母として、妻として、という、そんな役割に埋もれてしまった女性の物語にも思える。オンマは幸せだっただろう。でもわたしはそのオンマの幸せの向こうに、どうしようもなく深い哀しみを感じる。

そして何よりも、いなくなってしまったオンマに対する尽きることのない「ああしてあげれば」「あのときこうしてあげれば」という家族の告白が、そしていなくなるまで知らなかったオンマの姿が、わたしの母に重なっていき、実はわたしは母のことを「母として」しか知らないのだと思って、涙が出た。わたしに残された時間は少ない。

「愛せるときに愛せよ」という扉の引用が、こんなにも深く深く心に突き刺さって、いつの間にか、そこにあるのが当たり前だと思ってしまう母のことを、女性として、人間として、そして改めて母として、もういちど見つめたいと思った。