ゴー・エイミー・ゴー! ーAmy Schumer “The Girl with the Lower Back Tattoo”
わたしがエイミー・シューマーのことを知ったのは、数年前のことだ。TIMEマガジンのパーティーのレッドカーペットで、カニエ・ウエスト&キム・カーダシアン夫妻のまえで転んでいる金髪の女性の写真(*1)がインターネットに出回った。カニエ&キム夫妻は真顔である。あまりにもシュールなその写真が、ツボにはまってしまい、それからしばらく、会社で嫌なことがあったときは、トイレでその写真を見ては笑い転げ、寝る前にもその写真を見ては笑い転げ、出勤前にもその写真を見て笑い転げていた。そのとき、わたしはこの女性がコメディアンのエイミー・シューマーだと知ったのだ。
そのころから、様々なメディアでエイミー・シューマーの名前をきくようになった。いまでは、コメディセントラルで"Inside Amy Schumer"という冠番組を持ち、主演映画も制作され、エイミー・シューマーの名前を聞かないことがないほどの売れっ子コメディアンである。
“Inside Amy Schumer"で放送されるスキットは、ウィットに富んでいると同時に、風刺的で、時には見ているこちらが居心地が悪くなるほどである。わたしのお気に入りのスキットはティナ・フェイが出演している"Last Fuckable Day”(*2)(世間的に「旬をすぎた」と言われる年代の女優たちが、セクシーだと世間に言われる最後の日を祝うというこのスキットは、男性の俳優の半分の年齢ですでに「おばあちゃん」の役を割り当てられ、年老いた男性俳優の恋人役としては、どんどん出てくる若い女性俳優がキャスティングされる、そんなハリウッドを風刺したもの)と、「12人の怒れる男たち」をパロディにした"12 Angry Men"(*3)(果たしてエイミー・シューマーはテレビにでていいくらい、セクシーなのか?という議論が男達の間で交わされる)だ。
そんな人気絶頂のエイミーが自伝を出版したとなれば、読まないわけにはいかないだろう。なにより、わたしは女性コメディアンの自伝を読むのが大好きなのである。(わたしの書棚にはSarah Silverman, Tina Fey, Amy Pohler, Mindy Kaling, といったコメディアンたちの自伝が並んでいる。わたしは女性コメディアンの自伝を見ると、買わずにはいられない病にかかっている。)
スタンダップでは、「わたしのこんなセックス」ネタを披露して笑いをかっさらい、スキットでは社会を風刺する。そんな女性が本を出して、なにを書くのか、わたしはとても知りたかった。
「わたしのヴァギナへの公開書簡」から始まるこの自伝は、わたしがメディアやゴシップ、スタンダップ、スキットを通してみるエイミーのイメージとは、少し違っていた。マディソン・スクエア・ガーデンでスタンダップの公演をおこなった初めての女性コメディアンの書いたこの本は、とてもパーソナルであり、とても本人にとってセンシティブな話題についてもたくさん触れられている。例えば、いままでずっとスタンダップのネタにしようと思っていたけれど、あまりにつらすぎてネタにできなかった父親の多発生硬化症との闘病の話や、彼女が主演と脚本を担当した"Trainwreck"での、銃乱射事件について。DV男との供依存的な関係や、同意なしでのセックスでロスト・ヴァージンをしたことについて。
エイミーは冒頭で「この本にはセルフ・ヘルプ的な内容や、アドバイスは一切含みません!」と宣言しているけれども、本当はこの本にはエイミーからのアドバイスがたくさん出てくる。彼女はこう言う「わたしの初体験について、ここに書いたのは、わたしはこういうことが、いつかあなたの娘や、姉妹や、友達に、起こってほしくないからだ。わたしのこの声で、誰かとセックスをするときには、必ず同意を得なければならないこと、それをみんなに伝えたい。」
わたしは、この本やエイミーのことを、フェミニストであると言いたくない。セレブリティ・フェミニズムと揶揄され、腐されているものの中に、この本を置きたくないなと思うのだ。もっともパーソナルな出来事をつづりながら、自分の弱さを認め、それを愛するエイミーが、わたしは大好きになった。これからもどんどんその道を突き進んでほしい。先日は、「おっぱい見せろよ!」とステージ上のエイミーに叫んだ男性を会場から追い出す映像がネットにあがっていた。エイミーは最高だ。
余談だけど、同じように自伝で、自分の子宮について書いていた人がいるのをご存じだろうか。それは、"GIRLS"のレナ・ダナムなんだけど、エイミーとレナは仲良しで、2人のはじめての出会いはエイミーが"GIRLS"のショシャナ役のオーディションに来たことだったそう。最新号のレニー・レター(*4)では2人のインタビューが掲載されている。こちらも読んでみてほしい。
それと、"Trainwreck"はもう日本公開はありえないのかな?ソフトスルーでもいいから早く見たい。
(*2) Last Fuckable Day / Inside Amy Shumer
https://youtu.be/vDz2kcjWpOs
(*3) 12 Angey Men / Inside Amy Shumer
https://youtu.be/IOuHbWidxpE
(*4) Lenny Letter
http://www.lennyletter.com/culture/interviews/a527/the-lenny-interview-amy-schumer/