#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

ときには二項対立を見つめなければ ーRebecca Solnit “Men explain things to me”

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レベッカ・ソルニットのこのエッセイ集で特に有名なのが、表題のエッセイ(*1)である。

これはレベッカが、あるパーティーに参加したときのこと、とある男性主催者が「きみは本を書いているんだって?」と言ったことからはじまる。「ええ、数冊書いているんです」とレベッカ。するとその男性主催者は「へえ、どんな本を書いているの?」

「たとえば、最近はエドワード・マイブリッジについての本を書きました」とレベッカが答えた途端、その男性主催者はレベッカを遮り「つい最近、マイブリッジについてのとても重要な本が出版されたのを知っている?」と突如恍惚とした面持ちで語り始め、横にいたレベッカの友人が「その本は彼女の書いた本よ!」と3-4回言うまで、彼はその重要な本についての話をやめなかったのだ。しかも、実はこの男性、自分が散々語っていたレベッカの本を読んだことがなく、ニューヨークタイムズの書評を読んだだけだったのである!

これがかの有名な"Mansplaining"(*2)である。実際、Mansplainingという言葉が説明される時には、たびたび、このレベッカ・ソルニットのエッセイに言及されるほどである。(ソルニットはエッセイ中でMansplainingという言葉は使っていない)

レベッカ・ソルニットはこう続ける。「すべての女性が、わたしの言わんとしていることがどういうことか、わかるでしょう。どこの分野にいる女性たちにとっても、女性たちが声をあげ、聞かれるべきときにその意見が聞かれることから遠ざけてしまう、それがこの思い込みなのです。つまり、道路でのハラスメントがするように、ここはお前たちの住む世界じゃないのだと示すことによって、若い女性たちを沈黙に陥れてしまう。この思い込みは、男性たちの根拠のない過剰な自信を勇気付けるように、わたしたち女性の自信を喪失させ、自己限界の中に閉じ込めるのです。」

しかしこのエッセイは、わたしたち誰もが経験したことのある、日常的な「口を封じられる」ような経験から、さらに広がっていく。

たとえば、この「女性の意見を軽んじる」ということの極端な形は「中東において女性の証言は、何の法的権利がなく、つまり女性がレイプされたときに、彼女自身は証言をすることができず、男性の証言者が必要となる」ことにつながる。「女性の発言を信用しないこと」「女性の知識を信用しないこと」それは次第に、女性たちの命や身の安全すら脅かすものへとつながっていくのだ。

このエッセイだけでなく、この中編エッセイ集"Man Explain Things To Me"のすべてのエッセイを通して語られるのは、女性の存在を消そうとする力、女性の口を封じようとする力、女性たちを意思なきものとしようとするあらゆる力 -暴力、殺人、レイプ- についてだ。

ときに、レベッカ・ソルニットは危険なほどに「男性」と「女性」という二項対立を見つめ、批判する。あまりにも、その二項対立の構図を突き詰めるので、女性であるわたしまで、読み進めるうちに居心地が悪くなってくるほどに。

そう、わたしは、この二項対立から、弱腰で目をそらしたくなってしまう。「すべての人がそうではない」と、及び腰になってしまう自分もいる。けれども、レベッカ・ソルニットは、すべての根本に立ち返ってその二項対立を見つめ直し、その不平等を、弱者に課されるあまりにも多くの、ときにはその命を奪う負担を訴え、強者の傲慢さを、その暴力を、その弱者から搾取し続ける態度を、痛烈に批判するのだ。

彼女はこの本の扉の献辞にこう記している。
「祖母たちに、平等主義者に、夢みる人々に、理解ある男性たちに、進み続ける若い女性たちに、道を切り開いた先人たちに、終わることのない会話に、2014年1月に生まれたElla Nachimovitzが最大限に自分を発揮できる世界に」

フェミニズムってこういうことだ。先人たちがあって、わたしたちがいる。レベッカ・ソルニットはこのエッセイ集で、わたしたちに、そしてわたしたちよりもずっと若い女性たちに、まだ生まれてない女性たちに、その発言や意思が尊重される世界、暴力でその生命が脅かされることのない世界を願い、自身はある意味で、原理的とも言えるほど男/女の二項対立を掘り下げる。その二項対立はときに危うくも感じられるけれども、でもこの認識もまた、わたしたちに必要なものであるのだと、わたしは思う。

(*1)
Men Explain Things To Me
by Rebecca Solnit
http://rebeccasolnit.net/essay/men-explain-things-to-me/

(*2)
“Mansplaining"とは、"Man”(男)という単語とExplaining"(説明する)という単語をつなぎ合わせた造語で、Oxford Dictionayによると次のような意味だ。

-(Of a man) explain (something) to someone, typically a woman, in a manner regarded as condescending or patronizing.

(男性が)誰かに、通常は女性に対して、見下すような、もしくは、お高くとまった方法で、(何かを)説明すること。

“Mansplaining"という言葉は、2014年にオックスフォード・ディクショナリーに登録されている。