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#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

囚われの姫は誰だったのか?
ードラマ版『アウトランダー』における、原作からの効果的な「視聴者の思い込み」のズラし

 

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(S1 ネタバレあり)

だいたいクレアは2回(1回目 ランダルに拘束される/ 2回目 魔女裁判にかけられる)ほど生命の危機もしくは、言うところの「囚われの姫」の状況にさらされる。

原作ではそのうち2回ジェイミーが効果的にクレアを救出する。つまり、ジェイミーはまごうことなく「囚われの姫を救出するヒーロー」として描かれる。

1)ランダルによる拘束の巻 
原作: ジェイミーが颯爽と出窓から登場。姫を救出。

2)魔女裁判で絶体絶命の巻 
原作: 魔女裁判で、魔女かどうかを確かめる拷問にかけられそうになり、クレアが抵抗。その罰として鞭打ちされそうになるとき、颯爽とジェイミー登場。クレアがもらっていた黒石の十字架をクレアの首に(投げて)かけて「黒石の十字架で肌が焼けない=魔女ではない」とパフォーマンスをする。

それを見ていたゲイリスが自分が魔女であり、クレアは関係ないと告白し、その隙にジェイミーとクレアは逃げる。

また、ゲイリスはネッドによる弁護を受けることはなく、クレアだけがネッドの便宜によって、裁判中にもかかわらずゲイリスとは別の宿に泊まるなどする。クレアの罪悪感は特になさそうなのである。

ドラマ版では、1回目は原作と同じ展開なものの、2回目では効果的に「ジェイミーが助ける」という図式をスライドさせる。

2)魔女裁判で絶体絶命の巻 
ドラマ版: 魔女裁判で処刑台へ引き立てられそうになるが、クレアがそれに抵抗。鞭打ちの罰を受けるところで颯爽とジェイミーが登場。「神の前で妻を守ると誓ったので今回も妻を守る!」と、(クレアの心には響くだろうけれども、いまいち魔女裁判では役に立ちそうもない)キメゼリフを言うものの、とくにクレアの罪状に関して、大きく働きかける行動をとることはない。

これを見ていたゲイリスが自分が魔女であると告白し、そして自ら魔女の印として予防接種のあとを見せる。ここで「クレアを救う」パフォーマンスを行うのはゲイリスだ。

ドラマ版では、ネッドによる弁護をうけるのはゲイリスとクレア2名で、クレアだけが便宜を図られることはない。ネッドに「ゲイリスを魔女として告発するように」と言われたクレアは、それを拒否するという原作にはないシーンが追加されている。「女同士の友情」(友情と言ってよいものかわかりませんが)が強調されるような改変だ。

つまり、ドラマ版では、2回目のクレアの窮地の際に、彼女を助けるのはジェイミーではなく、彼女を救うためのパフォーマンスをするのはゲイリスなのだ。

ここでドラマ版では「ジェイミー=囚われの姫を救うヒーロー」という視聴者が必ず抱くであろう、ヒロイン(クレア)を救うのはヒーロー(ジェイミー)であるという、「鉄板の図式」に微妙なズレが生じている。

このズレが効果的に生かされるのがS1の最終話だろう。実はランダルの狙いはクレアではなく、ジェイミーで、ランダルはジェイミーの体を要求するのだ。

そして囚われたヒロイン(ジェイミー)を助けるために、悪の城に乗り込むのはヒーロー(クレア)なのである。先ほどの視聴者の固定観念の絶妙なズラしが、このラストでの、固定観念の転覆に、とても活きていて、ドラマ制作陣のとてもよく考えられた改変なのである。

仲間の助けを借りつつも、「囚われの姫」を救いだすために奮闘するのは、ドラマをみはじめたとき、おそらく誰もが「こいつがヒロイン、ヒーローに迷惑かけまくってその度に都合よく救出される女だ」と思っていたであろうクレアなのである。彼女が「囚われの姫」を救い出す存在だったと、誰が考えただろうか!(ジェイミーを見つけるまでのクレア&マータフの行動や、救出方法などは突っ込みどころ満載でまるでコメディでしたが!)

じつは、原作/ドラマともに、クレアがジェイミーに助けられる描写は思いの外すくない。

新婚当時、仲間から外れてイチャついていたところに、赤服に襲われる場面でも、銃を突きつけられるて動けないジェイミーをそばに、クレアは自分の身は自分で守り、短剣で赤服を刺し殺すのだ。

アウトランダー』は、いわゆる女性向けと言われている小説/ドラマだけれど、ここでも固定のジェンダーロール(男=守る/女=守られる)が転覆されている。つまり、女にだって、守らなきゃいけないものがある、ってことだ!よし、待ってろわたしのヒロイン!(みんな、ここでエイエイオーって言ってください)

つい、女向けっていうとやれ(ダサ)ピンクだ、やれ恋愛ものでもあげときゃいいんだろ、かわいけりゃいいんだろ、なんて思われがちなジャパンにいると、「女性向け」というレッテルを貼られながらも、きちんとたしかに女性が欲している(いい男の裸!そして(ただ単に腕っ節がという意味ではなく)強い女性!)ものを提供してくれる『アウトランダー』とてもよいね…という気持ちにもなったのだ。

けれども、「女性向け」というレッテルによってこのドラマや原作を敬遠してしまうひとたちも必ずいて、それはまるで「女の子は本当にピンクが好きなのか」に書かれていた、わたしたちのピンクへの拒否反応そのままにも思える。じつはわたしも「女性向け」と言われていることによって『アウトランダー』のことをすごく食わず嫌いで、敬遠していたし…ということで、これについてはまたこんど。