#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

わたしはたくさんのなかから選びたい! -Aziz Ansari “Modern Romance”

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先日、お互いにお互いが異性だったら絶対に付き合いたいよね、と毎日のようにラインを送り合っている友人のギャルと、公園でコーラ(珍しくビールではない)を片手に恋愛について話をした。

「恋愛について」と言っても特定のパートナーや恋人、そして想いを寄せる人すらいないわたしたちにとって、目下の議題は「どこにわたしたちの将来の恋人がいるのか」「そもそもこの公園で先ほどから何組もわたしたちの目の前を通るカップルたちは、どこで出会っているのか」という、雲をつかむような話であった。

最終的にいまさらデートとかめんどくさくない?うん、めんどくさい。付き合うまでにいろんな駆け引きをして、デートを重ねて、みたいなのめんどくさくない?うん、めんどくさい。という結論に落ち着いたので、わたしたちはとても満ち足りたきもちで美味しいアイスを食べに出かけた。

Aziz Ansariの"Modern Romance"によれば、わたしたちのように「恋愛が難しくなっている」と感じる人々は、世界中で増えているそうだ。その理由は「選択肢の多さ」にあるらしい。

いまや日常生活以外でも、インターネットのオンラインデーティングサイト(*1)で、いまここにはいない、あなたの運命(かもしれない)相手と瞬時に知り合うことができる。それこそアメリカには様々な特色を持つオンラインデーティングサイトがある。たとえばTinderやOkCupidなど。これらのサイトを利用すれば、あなたの「運命の人」の母数はグンと跳ね上がる。

インターネット以前は、紹介された、もしくは知人の数人の異性から1人を選び、結婚した。選択肢は少なかったけれど、結婚も早く、そして幸福度も高かった。逆に、選択肢の母数が増えたわたしたちインターネット以降の人間は、膨大な選択肢を前に「ああでもない、こうでもない」と悩むばかり。妥協をせずに膨大な選択肢から「ソウルメイト」を探そうとする。アルゴリズムでソウルメイトは見つかるのか?(見つかるの?見つかるならわたしもアルゴリズム頼みの恋愛をしようかな)

そして昔は、家庭生活においても性別で役割(女は内、男は外)が決まっていたため、その決められた役割をこなすことによって「定型の幸福」を得ることが容易かったため、結婚生活においてもパートナーに対しても幸福度が高かったそうだ。

性別での役割と言えば、わたしの妹は料理が上手で、とても面倒見がいい。(どちらもわたしに致命的に欠陥している要素である)8年以上付き合った彼氏と別れる時など、妹がその彼の胃袋を掴みすぎていた結果だろうと思うのだが、ものすごい修羅場になった。

しかしその彼氏と付き合っている頃の妹は、まるで飯炊きババアだなとわたしはかわいそうに思っていた。たとえば友人や母と買い物や遊びに出かけているとき、どれだけ楽しそうにしていても、夕方になると「彼氏のご飯を作らなきゃ」といって家に帰るのだ。20歳前後のいちばん楽しい時間を6年間も。結婚もしていないのに、ずっと。ようやく見つけた自分のずっとやりたかった仕事も、遅番で入ると家事ができない。ご飯を作ったり、洗濯したりできないから、とあんなに楽しそうにしていたのに、すぐ辞めてしまった。

妹の選択なら、わたしはそれをとやかく言うつもりはない。それでも敢えて言うなら、まだ20歳そこそこの女の子なら、外に出れば家に帰りたくなくなるほど楽しいことがたくさんあるはずだ。それなのに、夕方には家に帰って甲斐甲斐しく彼氏の世話をしている、そんな妹をわたしはとても可哀想だと思ったのだ。なんで彼女の選択肢は「彼氏と一緒に暮らし、彼氏の世話をすること」のひとつだけなんだろう。

そして、ひとつだけの選択肢を他人(あれ?彼氏は他人じゃない?おやおや?)の世話だけに限ることなく、その彼氏と別れたあとはたくさんの、自分のための選択肢を見つけていってほしいなと思ったのだ。(ええ、これは姉のエゴである)

その後、妹は彼氏と別れ、友人から紹介された男性(ひとり紹介されて、そのひとりに即決したらしい)と、出会って数ヶ月もたたないうちに同棲を始めた。いまでは毎日仕事をしながら、甲斐甲斐しく毎日ご飯や家事をして彼氏の面倒を見ている。

わたしにはたくさんの選択肢がある。デートの相手だけでなく、好きなこと、人生の楽しみかた、わたしの前にはほんとうに選びきれないほどの選択肢がある。それで幸福度が落ちたり、ソウルメイトが見つからずとも、恋愛に難しさを感じたとしても、わたしはそれでいい。たくさんの選択肢から、わたしは好きなものを好きなように、自分のために選びたい。

たくさんの選択肢を知るなかで、ひとつを選び取ったのならいいのだ。でも、わたしは自分の前に選びきれないほどのたくさんの選択肢があることに、おそらく気づかずに、ひとつのことを自分の生き方と決めてしまう妹のことを、とてもかわいそう思う。もっと楽しいことは、たくさんあるのに…選びきれないほどたくさんあるのに…(余計なお世話なのはわかってるよ!)でも、いまそのひとつの選択した道でがんばる妹のことは、心から応援したいと思っている。

*1: 余談になるけれども、こういうオンラインデーティングサイトにおいては、女性へのハラスメントの事例も多い。なぜ男性は自分のペニスの写真を見ず知らずの女性に送るのか。そして自分の誘いを断った女性にひどい侮蔑の言葉を投げつけるのか。"Modern Romance"ではそういう分析が少なかったのが残念だった。(実際ワーキンググループや自らのスタンダップショウで女性の観客に「オンラインデーティングサイトでハラスメントを受けたことはある?」と聞いて、その人数の多さと内容の下劣さにびっくりしたとAzizは本書に書いている)

オンラインデーティングサイトで女性に送られた「侮辱のメッセージ」や「ペニスの写真」におもしろコメントをつけた投稿サイト"Bye Felipe"が面白い。執拗に誘ってくる男に「ペットの猫を連れていってもいいか?「両親を連れて行ってもいいか?」などとふざけた質問で返す投稿は最高だった。
Bye Felipe
http://www.bye-felipe.com/

*2: コメディアンでもあるAziz AnsariはNetflixで『マスター・オブ・ゼロ』というドラマシリーズを製作している。これはアジア系移民とその子供たちの目線で描かれたとても面白いドラマだけれど、結婚や妊娠に対する、その無責任さがわたしたち女性が負う責任とは少し相容れない気がしてギョッとしたりもした。まあそこが笑えるのかもしれないけれど、なんというか"Not my type"というかんじであった。

“Modern Romance"もすごくよく書けている現代恋愛についての社会学の本だけど、ところどころ挟まれるうすら寒いギャグ(とわたしは感じた…笑いのセンスがなかったらごめんだよ)が"Not my type"というかんじだった。