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#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

Roxane Gay "An Untamed State"

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誘拐がビジネスとして成立する国、ハイチ。そこで生まれ育ち、いまはアメリカに住むMireilleはアメリカ人の夫と子供とともにハイチに帰省する。ある日のこと、家族3人でビーチに行くために実家の門を出た瞬間に、ヴァンに四方を囲まれ、中から出てきた男たちに銃を突きつけられ、Mireilleは誘拐されてしまう。建設会社を営む、ハイチ有数の裕福なビジネスマンであるMireilleの父の財産を狙った身代金目的の誘拐だ。

はじめのうちは、誘拐を「ビジネス」と呼ぶ犯人たちは、身代金のためにMireilleをひどく傷つけようとはしなかった。しかし、身代金を要求されたMireilleの父は、身代金の支払いを断る。自分の財産と、家族を守るために。しかしその父の決断は、Mireilleにとって地獄のはじまりだった…

先日ロクサーヌ・ゲイ自ら脚本を執筆し、監督 Gina Prince-Bythewood、主演グル・バサ=ロー(『ベル- 伯爵夫人の恋-』)で映画化が決定したというニュースが報じられたばかり。

この小説がどのように映画化されるのか、この小説を読み進めるのと同様に、この映画を見ることはとても辛い体験になるだろうと思うけれど、とても楽しみだ。

わたしはこの物語を「家父長制に救われなかった女の話」として読んだ。
(以下、ネタバレがあります。)

たとえば、富も権力も手にしたMireilleの父はまさに資本主義社会の家父長制のシンボルのような人だ。そしてその父は、自分の家族や親戚、財産を守るために、娘の身代金の支払いを拒否する。まさに父の守りたがっている「血のつながりを元にした家族」や「自らを家父たらしめる財産」は、家父にとってなくてはならないものだ。そしてそれを守るためには、ひとりの命を(たとえ血の繋がった娘の命でも)おおきな危険にさらすことも厭わない。わたしたち娘の命は、わたしたち娘の肉体は、この家父長制において、どれだけ軽いものなのだろう。

そして繰り返し使われる"Fairy Tale"という言葉。この言葉が仄めかすのは、しばしばおとぎ話で語られる"Dimsel in Distress"「囚われたヒロインとそれを救い出すヒーロー」という物語だ。けれども、誘拐されたMireilleを救い出すヒーローはいない。出会いから結婚までが、歯が溶けそうな甘いラブストーリーとともに語られるアメリカ人の夫は、慣れない土地で妻を救いだす手立てがなくパニックに陥るばかりだ。そして父親は、身代金の支払いを拒否する。

つまり"An Untamed State"においては、囚われた女を救い出す男たちの不在、おとぎ話の崩壊した後、が語られているのである。そして救い出されるお姫さまの物語としてもっともわたしたちの身近な「ディズニーのプリンセスストーリー」が家父長制に基づいた物語であることも広く知られている。やはり"An Untamed State"は家父長制に守られない女の物語が描かれているのである。

そして、傷ついて解放され、逃げるようにアメリカの家に帰ったMireilleを迎え入れた、夫は、本人の安全のためと言いながらMireilleを家の中に保護しようとする。Mireilleの受けたひどい仕打ちや、体の傷には目をくれることもなく、ただ彼女を保護し、自分の庇護下に置こうとするのである。誘拐という監禁状態から抜け出してもなお、Mireilleは家庭という家父長制の名の下に、保護という名の下に、また「囚われ」てしまうのだ。

しかし、いちど家父長制に裏切られたMireilleは、夫の敷く家父長制のもとにも留まることができず、逃げ出す。そして彼女が駆け込んだのは夫の実家、義母のもとである。

そしてMireilleが本当の意味で救われるのは、実際には血の繋がりのない義母のケアによってである。血のつながらない、そして女性によるケアによって、囚われ、ひどい暴力を受け、家父長制に見捨てられた女性が立ち直るこの物語は、シスターフッドの物語でもあるのだ。

読み進めるのが辛かったけれど、主人公Mireilleの強さと聡明さ、そして義母の手助けによってまた強く立ち直ること、夫との愛をまた見つけること、自分の人生を取り戻すこと、それがこの物語の救いだった。

“Girl children are not safe in a world there are men. They need to learn to be strong.”
-男の存在する世界では、女の子は安全ではいられない。彼女たちは、強くなることを学ぶ必要がある。