#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

#20 I'll be right there - Kyung-Sook Shin

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わたしは孤独なはぐれものたちがそっと集まって、またバラバラになっていくような話が好きなのだけど、この話もまさにそのお話。すごく優しくて、すごく寂しいお話だったのですごく時間をかけて文章の端々まで心の隅々に湿らせるように読んでしまった。読み終わったらもうぎゅーーーっと抱きしめて離したくないような小説だった。

母の死をきっかけにしばらく大学を休学し、復学したYoonはMiruとMyungsuhと知り合い、しだいに仲良くなる。大学の窓の外には対デモ警察による催涙ガスの匂いが漂い、まちにはデモ隊が溢れる時代の、ひとときの友情と別れの話。

このお話は文学を愛する人だったらみんな夢中になるとおもう。この小説のキーワードをあげるとすれば「猫」「文学」「散歩」わたしの愛してやまないことばかりだ。

これらのモチーフがとてもうまく作中にちりばめられていて、それらがわたしの心をつかんではなさない。

たとえば、母の死後、家からでなくなり実家に戻ったYoonが復学を決意するのも幼馴染との夜の「散歩」

復学して街での一人暮らしをはじめたYoonは、街をよく知るために街の地図を買いって大学までの往復に毎日別のルートを辿り、長い「散歩」をしながら通学する。

そしてYoonとMyungsuh、Miruの距離が縮まると3人は前述のYoonの散歩を3人で行うようになり、道中には「曲がっているものを直していく」ゲームや「くっついて歩いているカップルを引き離す」ゲームなどを行うようになる。

その後もこのYoonの再出発の散歩からはじまった街の散策は、友人たちとの関係が深まるにつれてその散歩に加わる人数がどんどん増えていくのだ。(その描写がすてきすぎて言葉が出なくなるほど)

そしてそれぞれ人との出会い、また別れの場面で印象的に引用される詩や文学作品の数々(たとえばEmily Dickinsonはこの話のなかでとても重要なモチーフになっている)がそれぞれのシーンを象徴していて、文学好きにはたまらないはず。

ロマンチックに、感傷的に、メロドラマチックにしようとすればいくらでもそう出来てしまうような内容だけれども、そこからあえて距離を保っている文章、内容にすごく好感が持てるし、むしろその淡々とした文章が孤独なわたしたちの心に寄り添ってくれるような、寂しくて優しい小説だった。

また最近、暴力の時代、たとえば直接的な暴力だけでなく、文面や往来で暴力的なことや憎しみが撒き散らされる時代において、わたしは文学にしがみついているけれども、果たして文学の役割ってなんだろう、もしかしたらわたしはただのセンチメンタル野郎なのかもしれない、といったようなことをよく考える。(結局は考え疲れてわたしのすがる藁なんだから大切にして慈しもうとなる) この小説にもデモ隊が通る大学の窓の外を見ながら暴力の時代にある人々を嘆く大学教授が登場して、そしてこの教授が最近話題の「ストーナー」に重なって見えて、それはそれは愛おしい小説だった。

サウンドトラックはToeの"For Long Tomorrow"です。
わたしはこのアルバムに収録されている"グッドバイ"がすごく好きなのですが、わたしが"I’ll be right there"を読んでいる間、ずっとその歌詞が思い起こされていて、まさにわたしの中でこの小説のサウンドトラックです。