#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

#19 カステラ - パク・ミンギュ

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わたしたちは毎日何を考えて生きているだろう。

少なくともわたしはこうだ。

平日は毎日、行きたくもない会社に行く。ぎゅうぎゅうの電車にのって、あさ8:30に出社して、無為な話が繰り返される朝礼に出席し、いやな上司の横で、じぶんが悪いことでもないのにお客さんに電話口で謝罪し、そんなこんなで鬱屈した気持ちがこれでもかというほど蓄積して、17:30、自分の机、仕事、会社、労働、謝罪から逃げるように飛びだしていく。いやでいやでたまらない。

外に出れば夜のネオンや、飲み屋のビールの泡がキラキラするけれど、平日の(とくに月曜日から木曜日の)わたしにはそれらのきらめきがいくらかどんより見える。

なんで働くのか、好きでもないのに。それは社会の仕組みで働かなくてはいけないと、なぜか信じているから。お金がなくてはいけないから。なんとなく、社会の中でまっとうであるという生き方をしていないといけないような気がするから。いやなこと、社会にとって害悪に思えることも、我慢して、世の中が灰色に濁って見えるようになっても、やっていくしかない。いやなことを心の中にためこんで、凍らしてしてしまう。

パク・ミンギュの「カステラ」は、そんな社会にとりこまれて生きるしかないわたしたちの、どうしようもない哀しみ、怒り、諦めをとても的確に捉えた短編集だった。

どれもモチーフは突飛かもしれない。たとえば社会人がタヌキになってしまったり、父親がきりんになったり、グレイバスで宇宙にいったり、ダイオウイカが攻めてきたり。それでもそのモチーフの裏側には、どきりとするほどの、そして痛いほどに身にしみる日々の生活をこなしていく、社会のシステムにとりこまれて生きていくことへの哀しさ、諦念がある。やるせない、けどやっていくしかない気持ち。

わたしたちはこれらの感情をよく知っている。毎日わたしたちが抱いている思いだ。毎日味わうこの辛い気持ち、哀しみ、害悪を、わたしの心の冷蔵庫にぶちこんで、そう来世紀を迎えたら、わたしの心の中にある大切なものたち、幸せな気持ちと混ざり合って、暖かくて甘くてとろけるような、カステラになったらいい。そんな短編集でした。すごくよかった。ぎゅーっと抱きしめたくなるような小説たちでした。