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#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

#10 On Such A Full Sea - Chang Rae Lee

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人々がそれぞれ閉鎖的な街に住み、街の閉ざされた門の外は「開かれた土地」となり荒廃し、危険がつきまとう。上流階級の街"Charter"に食料を供給する自給自足的なコロニー"B-Mor"に住み、魚を育てるタンクのダイバーとして働く少女Fanはある日、門の外へ姿を消した恋人Regの後をおい、B-Morの外へと旅立つ。Regはどこへいったのか?彼女の本当の目的は何なのか?

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すごく引き込まれて無我夢中で読んでしまいました。(記録のために書くとすこしわたしには英語が難しかった)

閉ざされたB-Morから旅立ったFanは行く先々で人を導き、救うような存在になる。それと対照的にだんだんとその滅亡のカウントダウンがはじまるB-Morの街。

B-Morに残された人物が優しく穏やかな眼差しで語るFanの物語と、なによりFanそのものが、いつの間にかわたしの希望となり、わたしの心はB-Morに残された人々とともにFanの冒険を追いかけるような読書体験でした。

この物語はFanの物語であるけれど、実際にはFanの物語ではなくて、残されたB-Morの人々が縋り付く一抹の希望の話であると思った時、最後のパラグラフが胸を締め付けます。

偶然にもこの本を読む前にデイブ・エガーズの「ザ・サークル」を読んでいたのですが、"On Such A Full Sea"はザ・サークル後の世界なんじゃないかとすら思えました。

「ザ・サークル」で、すべてをシェアし、透明化していって個人というものが希薄になっていき、その世界が壊れた後の世界はこんな感じなんだろう。

親戚同志で住み、ほとんどそのコロニーを出ることのない人々は「個人」というよりは「B-Mor」という集団で自分を語るようになり、その集団から出て行った者、Fanこそが個としての語られるべき歴史を持つことになるのではないか。

この本は、オプラのブッククラブでも紹介されていて、「コーマック・マッカーシーカズオ・イシグロを彷彿とさせる、意欲的な作品」とありましたが、ほんとうにその通りで、コーマック・マッカーシーの世界を、カズオ・イシグロが語ったような魅力的な一冊でした。

サウンドトラックはModeratのセルフタイトルアルバム"Moderat"です。
無機質なビートとどこかエモーショナルな音が荒廃した世界とFanの物語にとてもよく合います。