#わたしだけのブッククラブ

written by Nao (twitter: smkebks)

#8 Nobody is ever missing - Catherine Lacey

f:id:watashidake:20160927160213j:image

この小説は、わたしがわたしという存在から逃れる物語だ。わたしを囲う亡き妹、教授でありわたしの夫になる人間、わたしの母、わたしの過去、わたしの人間性、わたしの性別、わたしへの投影、わたしを固定するすべてのもの、とりわけわたし自身、わたしの全てととその人生からの逃走の物語。

とても心もとない。この主人公はとても心もとない。とてもふわふわしているのだ。そして手を離したら風船のように漂っていってしまう、そんな感じ。

わたしの心の中には獣がいて、その獣がいてはわたしは安全じゃないから、その獣がいなくなる場所を探していたり。楽しい時間を過ごしていても、好きな人ができても、次第にそう意図せずとも飽きてきて、世界から切り離されて、ひとりになっていく感覚。

そういう感覚を覚えることって案外と多いけど、その感覚が言葉になることは少ない。この小説はそんな感覚を的確に表すような表現の連続で、なんども読み返したくなる。

不確かなもの、わからないことだらけの世界、回想される過去や、壊れていくひとびと、喪失、そしてわたしたちがどんどん知らず知らずに手放してしまったり、勝手に手からふわと離れていってしまうものに対する悲しさがチクチクとわたしの心を刺すけど、あくまでも語りの視点は冷静で、わたしたちが「こう」と思っていたり、「こう」と言ったりすることをフワフワとかわしていくような、気まずさを孕んだ語り口が、「空白感」や「空虚感」をとてもうまく表していると思う。

わたしはこれから、わたしの気持ちが自分から切り離れて遠くをさまようようなとき、この本のことを思い出すだろう。わたし自身からどこか遠くへ逃げ出したくなるとき、この本がそばにあってほしい。

ヴォーグには「ネクスト・ゴーン・ガール」と評され、ジョス・ウィードンも絶賛の一冊、ほんとうにすごい物語だった。

なんだかぼんやりとした感想になってしまったのは、あまりにもこの本がわたしのなかの言葉にできない感覚や気持ちを的確に捉えているから。すごい小説でした。

著者のCatherine Laceyはこの本を出した出版社からもう2冊ほど出版の予定があるそうで、非常に非常に楽しみです。

サウンドトラックは
How To Dress Wellの"What is this heart?“ です。
チルウェーブ系のサウンドがじんわり心地よい一枚で、わたしが今年いちばん聞いたアルバムです。(とりわけ"Words I don’t remember"は胸がぎゅーーーってなる一曲です。)
来年のホステス・ウィークエンダーでも来日予定とのこと!楽しみ!